
身の回りのアイテムをモチーフにしたペインティングやドローイングで注目を集める落合翔平さん。多摩美術大学でプロダクトデザインを学び、卒業後は芸人を志した後、2018年に画家に転身するという異色の経歴の持ち主。
そして2022年には、ファレル・ウィリアムスが主宰するデジタルオークションハウス『JOOPITER』への作品提供を果たし、以降も自分の感覚を拠り所に制作を続けながら、国内外へと活動の場を広げています。
そんな落合さんにとって、「贈り物」はどんな意味を持つのか。そして、絵に対してどのような想いやこだわりを抱いているのか。渋谷のDIESEL ART GALLERYで開催中(2026年1月12日まで)の個展『Aesthetics』の会場で、作品を前にじっくりと伺いました。
手紙は、言葉の贈り物。自分の気持ちを素直に伝えられる
落合さんは贈り物をすることは好きですか?
はい、けっこう好きですよ。特に地元の名産品を交換し合うのが楽しくて。山形のさくらんぼなんかいただけたら最高じゃないですか。自分は埼玉の大宮が地元で、いまは浦和に住んでいるので、よく贈るのは「十万石まんじゅう」や「白鷺宝(はくろほう)」。
それから手紙を送ることも大事にしてます。場合によっては、筆圧強めで2〜3枚ほどガッツリ書くこともあって。もしかしたら暑苦しい奴だと思われるかもしれないですが、自分はそういう人間なんで。
どういう人に手紙を送るのでしょうか。
人生の中で「この人に会ったからいまの自分がある」と思えるキーパーソンが何人かいて。そういう恩のある方の誕生日や節目のタイミングには、必ず手紙を書くようにしてますね。
たとえば、僕がお笑い芸人を目指していた頃に所属していた事務所の副社長。「お前は変わってるんだから、一風変わったブログでも書いてみろ」と言われたんです。それで試しに絵日記ブログをはじめてみたところ、意外と多くの人に見てもらえて、それが結果的にいまの活動にもつながってるんですよ。
手紙を送るときって、少し仰々しくなるというか勇気がいりませんか?
そうですね。でも、対面だと気恥ずかしくて言えないことも、手紙ならワンクッション置けるぶん伝えやすいんですよ。書きやすいというより、言葉を扱いやすい。自分の胸の奥にある気持ちを素直に出せるんです。

思い出に思い出を重ねた、もう一つの渋谷の風景
個展『Aesthetics』は「もう一つの渋谷」がテーマになっていますが、落合さんにとって渋谷は思い入れが強い場所なのでしょうか。
めっちゃ強いですね。僕にとって渋谷は、カッコいい街の代表格なんです。中学・高校の頃は埼玉からよく遊びに行ってたし、そのときは新宿のことを勝手にライバル視してました(笑)。
あと、大学卒業後に就職した会社があったのも渋谷で。朝まで徹夜で作業してそのまま朝ごはんを食べに行ったり、布団を敷いて寝泊まりしたりっていう泥臭い記憶が山ほど残ってるんですよ。
作品をつくる過程で、渋谷という街に新たな発見もありましたか?
実は今回、構想段階ではいつもの賑やかな渋谷を描こうと考えてたんです。でも、モチーフを決めるために歩き回りながら写真を撮ってたら、喧騒から離れた日常的な渋谷のほうが気になってしまって。路地裏の古い看板とか、小学生が育てている朝顔とか、味のある商店街とか。華やかな街の真ん中で、日常の気配が顔を出す瞬間がたまらなく好きなんだと知りました。
風景画は個人的な思い出や気持ちが乗りやすいと思うのですが、制作するときはどれくらい意識されているのでしょうか。
たとえば渋谷公園通りにあるデニーズを中心に描いた絵は、1階にある古着屋がすごく印象に残ってたんです。でも、色を足したかったから、1990年代から2000年代に影響を受けたサッカーのユニフォームを描き加えました。思い出の場所に、さらに別の思い出を足していく感じというか。

他の作品でも、そうやって思い出を重ねて制作することは多いのでしょうか。
そうですね。車をモチーフにした作品は、渋谷を歩いているときに偶然見つけた日産のサファリを「めちゃくちゃかわいいな!」と思って描きました。それも実は、父親が日産派だったことが影響していて。自然と日産の車に惹かれるところがあるみたいです。

絵に対するこだわり。浮世絵に見る色彩の理想
落合さんの絵は情報量がとても多いですよね。
絵に必要な要素はすべて描き込みたい性分なんですよ。自分で言うのも変ですけど、本当に大変で大変で……。オーケストラの指揮者みたいに全部をまとめ上げないといけないし、しかも描いている最中に、思いもよらない新しい要素が急に現れることもあって。「お前、どこから来たんだよ?」みたいな。ただ、大変であればあるほど絵はよくなると思っているので、もう描くしかないという強い意思でやってますね。
どこにいちばんこだわっていますか?
色ですね。線やモチーフが注目されることのほうが多いんですけど、いちばんこだわっているのは色で。自分は浮世絵が好きなこともあって、鮮やかなんだけど少し灰色が混じった、鈍くて落ち着いた色味を再現できないかと試行錯誤してます。日本的な色彩には独特の魅力があって、作品を通じて「この色、本当にいいんですよ」っていう気持ちを届けたいんです。
落合さんの作品からはグラフィックデザイン的な強度を感じたので、浮世絵に影響を受けているというのは少し意外ですが、そう言われると納得感がありますね。
グラフィックデザインも大好きですよ。大学ではプロダクトデザインを専攻してましたが、本当はグラフィックデザインを学びたかったくらい。でも、受験で落ちちゃって。
ちなみに、描き続けることで作風やつくり方に変化が出てきたりもしていますか?
それはやっぱり変わってきますよね。自分はけっこう頑固だから、同じことをやり続けちゃうんですけど、いろんな人に出会うようになったことで違うことをやってみるのも悪くないなと思えるようになってきたんです。数年前の自分だったら、風景画は描いてなかったと思うんですよ。さまざまなカルチャーに触れていくうちに新しいことにトライしたいなという感覚が湧いてきたんですよね。
それと最近は、自分にないものを持っている人がチームの中にいるのが好きで。異なる視点やセンスを持つ人と話すと「そういう考え方もあるんだ!」と刺激を受けるし、それを作品にどう活かせるかを考えることもできて楽しいんですよね。
落合翔平という「一人のアーティスト」としてのイメージが立っていますが、実はチームで動いている部分も大きいんですね。
絵はもちろん自分ひとりで描いてるんですけど、他の部分でめちゃくちゃ助けてもらってます。今回の個展で制作した立体作品も、ゴードン(Higgins, Gordon Matthew)っていうジャマイカ出身の建築家が一緒につくってくれて。会場の壁を空色にしたのも彼のアイデアなんですよ。

あと、メインビジュアルをデザインしてくれたアートディレクターの吉田昌平さん(『白い立体』主宰)とは『暮らしの手帖』の表紙を描いたときにご一緒したんですけど、すごく丁寧な仕事をされる方で「ぜひ一緒にやりたいです」ってこちらからお願いしたんです。スペシャルな人たちに関わってもらえるのはありがたいですね。
「暮しの手帖」
— 落合翔平 (@ochiaishohei) July 27, 2025
最新号の表紙にサボテン描いてます
是非🌵
「暮しの手帖 第5世紀37号」
第5世紀37号
2025年8月-9月号
7月25日発売@kurashinotecho pic.twitter.com/OOGJw7dZwt
自分の感覚を信じる。根拠のない自信が背中を押す
ご自身を頑固だとおっしゃっていましたが、譲れるものと譲れないものの線引きは何かありますか?
絵そのものは触られたくないんですよ。でも、絵をどう見せるかというアイデアは、いろんな人に意見をもらったほうがいいと思っていて。自分ひとりの限界もわかってるし、チームだからこそ出てくる発見も本当に多いんです。壁を空色にするアイデアも、自分だけだったら絶対に出てこなかったと思います。そういう新しい発想をもらえるのは、チームで動く醍醐味ですよね。
自分の作品に対する譲れなさは、いつ頃から芽生えたんですか?
たぶん最初からあったんだと思います。大学で時計をつくる課題があって、市販の時計の中身だけ取り出して、限界までミニマルに仕上げたんですよ。「めっちゃかっこいい!」と思って教授に見せたら、ばっさり否定されて(笑)。「どう直せばいいですか?」と聞いたら「色だけ塗れ」と言われて、オレンジのスプレーで塗ったら一気につまらなくなっちゃって。同級生にも「さっきのほうがよかったじゃん」なんて言われるし……。でもそのとき、自分の中に絶対譲れないラインがあるんだって気づいたんですよね。
だから、いまは自分のことをめちゃくちゃ信じてます。もう、信じすぎてるくらい。僕、『BLUE GIANT』っていうジャズ漫画が大好きなんですけど、主人公の宮本大って、自分の可能性をとんでもなく信じてるんですよね。あれに近いかもしれないです。根拠なんてほぼないんですけど。
落合さんの自信って嫌味な感じがしないですよね。どこか愛嬌があるというか。
能天気なんですよ、基本。なんでもポジティブに受け止めるし、怒られてもすぐケロッとしてる。あと、母親が愛嬌の塊みたいな人で。完全にその遺伝子を継いでると思います。

落合さんはもともと芸人として売れたかったわけですよね。でも、それは叶わなかった。そのことに対する折り合いのつかなさみたいなものを感じることはありますか?
昔はありましたね。子どもの頃から芸人になりたくて、それしか見えてなかったので。でも、向いていなかったんですよね。そのとき、自分は一度死んだ感覚があって、後に残ったのが絵だったんです。当時から絵だけは人に褒めてもらえていて。じゃあ、絵で勝負するしかないなと。
さきほどの揺るがなさとも通じますよね。
そうですね。自分でも向き不向きってあるんだなと思いましたね。本当に芸人は向いてなかった(笑)。
未練はないですか?
それはないです。完全に切り替えました。お笑いでM-1を優勝することはできなかったので、絵で頂点に立つしかないなって。いまはそれだけを考えています。

落合翔平(おちあい・しょうへい)
画家
埼玉県大宮生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科 プロダクトデザイン専攻を卒業。身の回りにあるアイテムを描いたペインティングやドローイン グを発表してきた。ダイナミックで予想不能な形状や立体感、力強い筆圧で描かれた線画が特徴。2022年、ファレル・ウィリアムスが主催するデジタル オークションハウス「JOOPITER」の立ち上げ時のマーチャンダイズに作品を提供、2023年にTerrada Art ComplexIIのYUKIKO MIZUTANIで個 展「THIS IS OCHIAI SHOHEI」を開催。2024年、NEW ERAと読売ジャイアンツをパートナーに迎えたトリプルコラボレーションコレクションの発 売。本年、コラボレーションした「Original Tamagotchi」を発売。また「JOOPITER Marketplace」にて作品の取り扱いを開始するなど国内外で活 動の幅を広げている。