
2023年4月からTBSラジオ『こねくと』でメインパーソナリティーをつとめ、柔らかく明るい雰囲気と独特な感性でリスナーを魅了する石山蓮華さん。文筆家として、電線への愛を綴ったエッセイ『電線の恋人』(平凡社)や、ちゃんとできない自分との葛藤を書いた『犬もどき読書日記』(晶文社)など、飾らず正直に言葉にすることは石山さんの魅力のひとつだ。ラジオを通して、リスナーやゲストと日々気持ちをやり取りする石山さんに、ごくごく個人的なギフトストーリーを伺った。
実家の記憶と共に両親から受け継いだもの
石山さんが「大切にされている贈り物」はなんでしょうか。
父と母から受け継いだダイニングテーブルと椅子2脚です。もともと実家で使われていたもので、私が生まれた頃からありました。両親が結婚するとき、新居用の家具を探しにデパートへ行って、ふたりともこの飛騨のメーカーのダイニングセットをすごく気に入って、即決したと聞きました。
新婚当時、私の母はまだ20代前半で父も30歳そこそこ。財力的に予算オーバー、椅子は2脚までしか買えなかったそうです。ですが、その話を私の祖父が聞きつけて、ふたりに内緒で椅子をもう2脚増やして自宅に贈った。届いたのは4脚で、父と母は驚いたそうですが、蓋を開けてみたら祖父からのギフトだったとわかったという話を子どもながらに「いい話だな」と思っていました。

このダイニングテーブルには、どのような思い出がありますか?
子どもの頃からずっと使っているので、いい思い出もあれば、寂しい思い出もあります。よく覚えているのは、中学生のときは朝起きるのがいつもギリギリで、バタバタと制服に着替えて、急いでテーブルに座って朝食をかきこんでいると、毎朝のように味噌汁を制服にこぼしてしまうという(苦笑)。
食べるのが遅かったこともあり長いことテーブルに座っていましたし、小学校5年生で食欲旺盛になって、いろんなものを食べるようになったのもここで、重めの家族会議でも、このテーブルを囲んでいました。
楽しさも寂しさも、いろんな時間を共に過ごしてきたものですね。
そうですね。子どもの頃から使っていて塗装が剥げてきているから、一度メンテナンスに出したほうがいいかなと思うんですが、味わい深くて「悪くないな」と思うようになりました。汚れたらアルコールで拭きますし、随分ハードに使っていますが、頑丈ですね。

使い心地や印象も、大人になるにつれて変わってきましたか?
子どものときは視点が低く、テーブル=引き出しというイメージでした。天板の下に、小さな引き出しがついているんです。開け閉めの心地や取手の音が好きで、よくいじっていました。本来はカトラリーを入れておくためのもので、いまは整頓好きなパートナーが綺麗に整えてくれているんですが、実家ではボタンや小銭など、行き場のないものが大体ここに突っ込まれていました。父と母が家に遊びに来たときに、引き出しを開けて「……ちゃんと使ってる!」と感嘆していました(笑)。

実家で愛用されていたものが、どのような経緯で石山さんに受け継がれたのですか?
パートナーと一緒に住むことになって、おもに彼がひとり暮らしの家で使っていた家具を持ってきたのですが、ダイニングテーブルはちょうど良いものがなくて。実家のダイニングテーブルが使われていないことを思い出したんです。母は祖母と暮らしていて、父も使っていなくて、弟も家を出ていて。椅子はパートナーが椅子好きでたくさんあったので、実家に2脚、残り2脚を持ってきました。
個性的な椅子とも合う、許容範囲の広いデザインだなと感じます。子どもの頃はいいとも悪いとも思っていなかったのですが、大人になってみると自分が好きなテイストに近いものだと気が付きました。
今はどのようなテイストがお好きなんですか?
古いものが好きです。正直に言えば「お金がかからない」という理由で持ってきた部分もありますが、実家を出てしばらくこのテーブルと椅子から離れていた時期があり、再び一緒に暮らすようになって改めて良さに気づきました。
このダイニングテーブルの良いところは、まず角が丸くなっていること。私は家具や家の柱などいろいろなところに身体をぶつけたり、洋服を引っ掛けたりするのですが、丸いとそういう心配がありません(笑)。
使い勝手もいいんです。バタフライテーブルといって、シチュエーションに合わせて天板を広げたり畳んだりできる。普段折りたたんでいると、余計なものを置かなくなるので片付けする癖がつきますし、友だちや家族が来たときは広げると、一気におもてなし感が出て楽しいです。
人に贈り物を選ぶのは難しい
他にも、大切にしているギフトはありますか?
誕生日にいただいた「電線の絵」ですね。リビングのよく見えるところに飾っています。TBSラジオ『こねくと』昨年の放送で、水曜日にご一緒している東京03の飯塚(悟志)さんが、リスナーさんでイラストレーターの藤原徹司さんにお願いをして、特別な絵を贈ってくださったんです。本当に嬉しかったですし、大人ってこういう工夫のあるプレゼントをくれるんだと思いました。向こう10年分のプレゼントです、と言われています。
ふじ色のサッカー人生さん、
— TBSラジオ『こねくと』(毎週月曜〜木曜・14時から放送中!📻) (@connect_tbsr) October 23, 2024
ありがとうございました!
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こんなに素敵なものをいただいたので、お返しをどうしようか悩んだのですが、小さく毎年手渡していこうと思って、今年の飯塚さんの誕生日にはスタッフも含めた全員へのおにぎりをケータリングして贈りました。ですが、もう一捻りしたかった気もします(笑)。来年はリベンジしたいです。
ギフト選びって難しいですよね。相手のパーソナルな部分にぴったりハマるものを贈るか、サプライズ的なおもしろいものを渡すのか。
年上の男性の方で、キャリアもあって……となると、正直何をあげたらいいのか迷ってしまって。そもそも、私自身ギフトのセンスが全然ないんです。ラジオでご一緒するパートナー4人のうち3人が男性です。唯一の同性かつ、年齢も近い火曜パートナー・でか美ちゃんには、自分がもらったら嬉しいものをあげています。
ほかのお三方は、相手の好みや趣味から想像して、使ってもらえそうなものをあげるのですが、まだヒットを打てていない気がします。月曜日パートナーのパンサー菅(良太郎)さんは塩をつまみにお酒を飲むのが好きだと聞いて、塩が入る小皿とグラスのセットをあげたのですが、ハマりませんでした。木曜日パートナーの(土屋)礼央さんは、ライブ遠征が多いこともあり、私がお気に入りの圧縮袋をあげたのですが、特別感はいまひとつだったかも(笑)。
日用品とギフトの線引きって難しいなと思います。今回のお話をいただく何年か前から、ギフティさんを個人的に使わせてもらっているんです。どれもギフトとしてセレクトされたものなので、そのラインを間違えない感じがします。以前、出産祝いにアイスクリームのセットをあげたとき、すごく喜んでもらえました。暑い時期だったので、「冷凍庫の容量的に大丈夫そうですか?」と一応聞いてみたら「アイス大好き!」と言ってもらえて。子育ての場面を想像するとサッと食べられるものがいいかなと思ったんです。見た目も可愛くて、美味しそうなアイスクリームを贈りました。
石山さんが贈り物を選ぶ基準は相手が使っているシーンを想像して選ぶか、ご自身のお気に入りを贈ることが多いのでしょうか?
相手が万が一好みじゃなくても、使えるものを贈ることが多いです。センスに自信がないので残るものよりは消えるものを。ただ、私自身はどんなものをもらっても、自分について考えを巡らせてくれたという事実が嬉しいです。菅さんにはんだごてをもらったのですが、いまのところ使ってはいません。でも、おもしろい記憶として、たまに引き出しから引っ張り出して眺めます。
電線の絵も、アイデアから素敵ですよね。相手としては、これだけ電線好きの方に電線の絵を描いて贈るのは、相当なプレッシャーだったと思うのですが…….。
でも、リスナーさんご自身も電線がわりとお好きだと聞いたので、これだけのものを描けるんだと思います。非常にリアリティがありますし、下から見上げるような構図もすごくカッコいいと思います。

ラジオをきっかけに受け入れる範囲が広がっている
ラジオを拝聴していて思うのは、石山さんはとても柔和ですよね。日々ある分野に特化した方々にお会いしても、みなさんの話を「一度受け入れてみよう」という姿勢を持っている。それは、贈り物を受け取る姿勢にもつながっていると思います。
ありがとうございます。もともとは関心が狭くて、めんどくさがり。ラジオを始めてから、これまで興味がなかったことにも半ば強制的に足を踏み入れることになり、実際にのぞいてみると人が夢中になる理由がわかります。ラジオをきっかけに、どんどん受け入れる範囲が広がっている気がします。
たとえばお笑い、サッカー、自炊はラジオをきっかけに触れたものです。曜日パートナーの方々をきっかけにコントを見るようになり、そこからもともと好きな演劇にも通じるコント、漫才、漫談などお笑いという芸能の広さを感じるようになりました。これまでほとんど触れてこなかったのですが、お笑い好きの友人が、あれだけ夢中になる理由が素直にわかったというか、腑に落ちました。
自炊はどのような理由で始めたのでしょうか?
私は、無印良品のカレーを温めるか冷凍食品を温めるか、料理は二択だったんです。ただ、リスナーさんから料理に関するメールを頂戴する機会が多いのと、会話の中で料理に関する話題が出てくることも多いんですね。「やってみたら?」と言われても、ほぼ聞き流していたのですが、今年の6月になって急に、作り置きが楽しいことに気がつきまして。まだ数ヶ月しかやっていないんですが、すでに作り置き最高だなって思っています。
これまでほとんど自炊をされてこなかったのに、「作り置き最高だな」と思うようになったきっかけはなんだったのでしょうか?
5月に風邪を引いてしまい、ラジオをお休みしてしまった時期がありました。もともとは、パートナーが作ってくれたごはんか、先ほどの二択、あとは外食でしたが、体調が悪いときは早く家に帰って食べて、サッと寝たい。家で食べる機会が増えて、自然と自分で作ってみたいと思うようになりました。大学の先輩がInstagramにアップする、週末の作り置き写真も素敵だなと思っていたんです。いざやってみたら、ラジオやPodcastを聴きながら手を動かすことがとっても楽しくて。週末に、平日4日分の作り置きをして食べる、というリズムが少しずつできています。
ずいぶんと暮らしぶりがガラッと変わりそうですね。
これまでルーティンが一切ない人生だったのですが、月曜日から木曜日まで毎週同じ時間にラジオ局へ行く、という仕事が生活に組み込まれたことで、自分の暮らしもメリハリがつきました。これまでは気の向くままに過ごしていたのが、休みなら家事をしたり遊んだり、目的のある日を作るようになりました。
リスナーさんと私たちはお互いに贈りあっている存在
関心が広がる中で、「これは受け入れてみよう」と思う基準はあるのでしょうか?
なんでしょうか……誰かに誘われたイベントにはすぐに「行く!」と返事しながら、当日は足を引きずりながら向かうような人間です。行ってしまえば楽しいんですけどね。ラジオを通して、やってみたら意外と好きだったり、食わず嫌いだったけど自分に合っていたり、まだまだ面白いことがあるものだなと思います。誰かの話を聞くためには、こちらが好き嫌いを判断する前に、まずは私が好きになってみよう、と思っているからかもしれません。心を開かないと興味も出てこないですし、どんな人も必ず素敵なところがある。遠く感じるスターだとしても、会ってみると「人間なんだな」と親近感がわくことがあります。
なので、あまり最初から「これなら受け入れよう」と決めつけずに、実際に足を運んでみたり話してみたり、時間をかけて知っていこうと思うようになりました。
ゲストの方はみなさん基本的にトークに対し前向きな方がほとんどなんですが、稀に「連れて来られました」みたいな方もいて、人間らしくておもしろいんです(笑)。会話のラリーがすぐに終わっても、その人がどんな角度だったら話したくなるのか、時間に限りがあるなかでパートナーの方と探りながら喋る様子を、リスナーさんも楽しんでくださっていたらいいなと思っています。
聞き出す“コツ”のようなものはあるのでしょうか?
こう言ってはなんですが、ないですね(笑)。私の場合は「その人による」というのがいまのところの実感です。ひとつ、思ったことを恥ずかしがらずに聞いてみるというのは大事にしています。真正面から聞くという空気感がラジオならではだと思いますし、聴いてくださる方に私からの贈り物として差し出せるものは、その部分なのかなと。
リスナーさんとは、贈り合うような関係性なんですね。
時間を共有しているという意味では、リスナーさんと私たちはお互いに贈りあっている存在だと思っています。ラジオはリスナーさんがいないと成立しない仕組みになっている。時間を私たちにくださって、生活のエピソードや感想をくださって、いただいてばかりなので、私もどうにかお返しできるようにと思っています。楽しい空気感が隣にあることで仕事や家事が進んだり、休息になったり、日常に伴走できるような番組を作りたいというのは目標として掲げています。
ラジオが3年目に入り、独立もされ、大きな変化があった中でご自身を見つめる機会もあったのではないかと思います。周囲との関係性や日々の暮らしなど、変わっていくことと変わらないことについて、石山さんが感じていることをお聞きできますか?
『犬もどき読書日記』を書いた時は、真人間を目指すとしんどいことが多すぎるので、自認を犬に変えて生きるという方法でやっていこうと思っていました。子どもの頃から、毎日同じ時間に同じ場所に通うことは絶対に無理だと言われてきたんです。それでも、週4日ラジオをやるようになって、大人になっても人は変わることができるんだと思いました。
話の仕方も少し変わってきたと思います。それまでは、たとえばフェミニズムの話をするときに、女性として生まれ育ってきた経験を同性に向けて話すことが多かったのですが、「どうして石山さんはフェミニズムの話をするときに、相手を女性に限定するんですか?」と聞かれて、考えさせられました。私は自分の経験も含めて、似た苦労をしている人に伝えたかったからラインをはっきり引いていた。ある時、よく行くお店で仕事の話をしていたら、隣のテーブルで地元の建設業関係のおじさんたちが愚痴っていて、自分とすごく重なったんです。その辺りから、職業やジェンダー、年齢で人を区切ることを少し解体して話せないかと思うようになりました。
紆余曲折といったら簡単ですが、『犬もどき読書日記』で綴られていた葛藤や悩みが、時間と共にかたちを変えていくことはありますよね。『電線の恋人』では少しずつ考えが広がっていく過渡期にあり、どの瞬間の自分も本当なんだな、とお話を伺っていて思いました。
そう思うと、どの不器用さも自分の通ってきた道として無駄ではなかったのかなと思います。振り返れば常に過渡期だと思いますし、生きている限り問い続けていく。まだ、自分の不器用さに折り合いはつけられていませんが、この3年で新しい仕事を始めて、独立して、自分で決められる裁量の範囲が広がったことで、また変化の時期が訪れているのかもしれません。

石山蓮華(いしやま・れんげ)
電線愛好家・文筆家・俳優
1992年生まれ、埼玉県出身。TBSラジオ『こねくと』のメインパーソナリティ。電線愛好家として『タモリ倶楽部』などのメディアに出演するほか、日本電線工業会公認「電線アンバサダー」としても活動。著書に『犬もどき読書日記』(晶文社)、『電線の恋人』(平凡社)がある。近年の出演作はドラマ「日常の絶景」(テレビ東京)など。